鳥取で農業と養蜂をやっている安藤です。昼間の巣箱は出入りがひっきりなしで、この子たちはいつ休んでいるんだろう、と思うくらいです。
でも実は、ミツバチもちゃんと寝ますし、寝不足になると仲間への道案内がブレることまで分かっています。
ミツバチにも、睡眠がある
外で蜜や花粉を集める働きバチは、主に昼に活動して、夜は巣の中で休みます。その夜の休みを早くから調べていたのが、ドイツの研究者カイザーさんです。1988年の論文では、そうした働きバチを1匹ずつ分けて、夜のようすを細かく記録しています。
夜の蜂は、筋肉の力が抜けて、ほとんど動かなくなる。体温が下がる。刺激を与えても、反応が鈍くなる。人や鳥の睡眠と、よく似た特徴です。カイザーさんは、夜のこの深い休みは睡眠とみてよさそうだ、と結論づけました。
ちなみに、このとき1日の睡眠時間を測った2匹は、7.6時間と4.9時間でした。たった2匹の記録ですが、人間とそう変わらない数字です。
眠りの深さによって、姿勢も変わります。2008年にイスラエルの研究チームが研究室で1匹ずつ観察した記録では、眠りを3段階に分けていました。いちばん深い段階では、胸とおなかが床につくくらいまで体が沈み、触角もだらんとして、ほとんど動かなくなります。
寝不足の蜂は、道案内がブレる
ミツバチは、いい花の場所を見つけると、巣に戻って仲間の前で「尻振りダンス」をします。お尻を振りながらまっすぐ進む、その向きで花のある方角を伝える。巣の中でやる道案内です。
人間も、寝不足だと話があいまいになったり、人の話が頭に入りにくくなったりしますよね。では、ミツバチの道案内はどうなるのか。2010年に、アメリカの研究チームが確かめています。
使ったのは、その名も「インソミネーター」(眠らせない装置)。背中に小さな金属片をつけた蜂の上を、夜のあいだ磁石が通って、休んでいる蜂を揺さぶって起こします。名前も仕掛けも、なかなか容赦がありません。
すると、寝不足にされた蜂のダンスは、花の方角を示す向きのブレが大きくなりました。ダンスがまるで間違っていたわけではなく、精度が落ちた、という結果です。
人間でいえば、道を聞かれて「あっちです」と指差す方向が、毎回ちょっとずつズレる感じでしょうか。研究チームは、これでは仲間が花にたどり着きにくくなるだろうと見ていますが、この研究ではそこまでは確かめていません。
寝不足が、仲間への伝え方にまで響く。群れで暮らす虫ならではの話です。
外回りは夜に寝る、若手は昼も夜も
働きバチは、年齢によって仕事が変わります。若いうちは巣の中の掃除、次に幼虫の世話、蜜の貯蔵をへて、最後に外回りへ。これが基本の流れです。
そして、仕事によって眠り方がちがうんです。観察用の巣箱で、1匹ずつ印をつけた蜂を追いかけた研究があります。外回りの蜂と、巣で蜜を貯める蜂には、昼に働いて夜に多く眠る、1日のリズムがありました。いっぽう、掃除や子育てをする若い蜂には、はっきりした昼と夜のリズムがありません。昼も夜も、働いては眠るをくり返しています。
眠る場所もちがいます。若い蜂は、巣の真ん中あたりで、空いた巣房(六角形の小部屋)にもぐり込んで眠ることが多い。年上の蜂は、巣の端のほうの温度が低いところで、巣房の外で眠る傾向がありました。六角形の小部屋が、そのままカプセルホテルです。
巣房の中でじっとしている時間まで睡眠に数えると、いちばんよく眠っているのは、羽化してまもない若い蜂だったそうです。新人ほどよく眠る職場。ちょっとうらやましいです。
つまり夜の巣の中は、全員で一斉に寝ているわけではありません。外回り組がぐっすり眠っているあいだも、若手は働いては休んでいる。こっちは、ほんとうに夜勤みたいなものです。
巣の中の「見回り」は、本当にある
もうひとつ、巣の中には「見回り」のような行動もあります。研究者のあいだでは「パトロール(巡回)」と呼ばれていて、蜂が巣板(六角形の部屋が並んだ板)の上をぶらぶら歩きながら、あちこちの巣房をのぞき込んでいく行動です。
ジョンソンさんの2008年の研究では、見回り中の蜂は、何か所か続けて巣房をのぞいては、また歩き出していました。巣のすみずみまで回ることも多く、中堅の年ごろの蜂の多くが、数時間のうちに巣全体を歩いていたそうです。
何のためかというと、どこでどんな仕事が足りていないかを知るためと考えられています。それまでは、蜂は自分のまわりの様子だけを見て動く、と考える説が多くありました。巣全体を見て回る蜂がいると示したのが、この研究です。
決まった「見回り係」がいるというより、中堅の蜂の多くが、巣をぐるっと回りながら仕事を探している。そんな感じです。
ミツバチも眠るし、眠り方は仕事でちがうし、寝不足だと道案内がブレる。人間とそう変わらないみたいなので、今夜はお互い、ちゃんと寝ましょう。
参考にした研究
Kaiser W (1988) Busy bees need rest, too. Journal of Comparative Physiology A. https://doi.org/10.1007/BF00603841
Eban-Rothschild A, Bloch G (2008) Differences in the sleep architecture of forager and young honeybees (Apis mellifera). Journal of Experimental Biology. https://doi.org/10.1242/jeb.016915
Klein BA ほか (2008) Caste-dependent sleep of worker honey bees. Journal of Experimental Biology. https://doi.org/10.1242/jeb.017426
Klein BA ほか (2010) Sleep deprivation impairs precision of waggle dance signaling in honey bees. PNAS. https://doi.org/10.1073/pnas.1009439108
Klein BA ほか (2014) Mapping sleeping bees within their nest. PLOS ONE. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0102316
Johnson BR (2008) Global information sampling in the honey bee. Naturwissenschaften. https://doi.org/10.1007/s00114-008-0354-3
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